「実に珍しい人物だ」  塚本定次

 勝海舟は「氷川清話」の中で、「江州の塚本定次という男は実に珍しい人物だ」と書いている。   

 「数万の財産を持っておりながら、自分の身に奉ずることはきわめて薄く、いつも二子のはおりと同じ着物でいて、ちょっと見たところでは、ただの田舎の文盲なおやじとしか思われない」

 「しじゅうおれのところへいろいいろの話を聞きにくるが、昨年もやってきて『私も近ごろ思いがけず四万円ばかり積み立て金ができましたが、せっかくできたものですから、なんとか有益な事につかおうと存じますけれど、自分ではどうもよい判断がつきかねますから、わざわざそのご相談に参りました。 

 まず私の考えるところでは、その一半を学校の資本に寄付して、その一半は番頭や、手代らが真実に働いてくれました結果ですから、それぞれの年功の序列多少に従うて、分けてやるが妥当だろうと思います』といったので、おれもその考えの尋常でないのに感心して、賛成してやった。

 この男の考えの非凡なることは、けっしてそのときに始まったことではない」と、定次が所有地を公園にしたことや、「この男と、その弟正之は山林熱心家で、わが県下の山林のためにといって、二万円ばかり預けているそうだ。あれがいうには、『この二万円がなくなる時分には、山林もだいぶ繁殖してまいりましょう。だが、私はとてもそれを見ることができますまい。

 しかしながら、天下の公益でさえあったら、たとえ自分が一生のうちに見ることができないといっても、その辺は少しもかまいません。私は五十年さきの仕事をして置くつもりです』といった。なかなか大きな考えではないか。かような人が、今日の世の中に幾人あろうか。日本人ももう少し公共心というものを養成しなければ、東洋の英国だなどと気どったところで、その実はなかなかみることはできまいよ」と、特別の人物であると賞賛している。 

塚本定次(文政9年・1826年~明治38年・1905年)、二代目塚本定右衛門は、ツカモト株式会社の創業者である。


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 近江商人は、始末して勤勉に働くだけではなく、「売り手よし、買い手よし、世間によし」の「三方よし」で商いに励み、陰徳を積んだ。これこそが、お客様の満足を追求することにより、企業の永続的発展を目指す「顧客満足(CS)経営」の源流であり、世界に誇ることのできるビジネスモデルである。




顧客満足経営
近江商人は、始末して勤勉に働くだけではなく、「売り手よし、買い手よし、世間によし」の「三方よし」で商いに励み、陰徳を積んだ。これこそが、お客様の満足を追求することにより企業の永続的発展を目ざす「顧客満足(CS)経営」の源流であり、世界に誇ることのできるビジネスモデルである。

CS(顧客満足)経営をテーマに企業・地方自治体で指導。現在は、(社)日本経営協会専任講師、千葉県生涯大学校・統括講師として活動。著書は「先進11社にみる顧客満足経営」「江戸商人の経営哲学」など。

近江商人に学ぶ
「長者に二代なし」と言われた江戸時代、その多くは一代で没落した。その一方で、老舗として何代も続いた店も少なくない。なぜ、そのような違いがでたのか。金儲けがうまかったからなのか、それとも金儲けのためには手段を選ばなかったのか。
その疑問を解いてくれるのが、江戸時代の豪商である。なかでも、伊勢商人とならび称された近江商人の生き方は、私たちに大きな示唆を与えてくれる。